2020年10月、11月、12月分の日記です。日常のささいなことを綴った不定期更新の日記です
2020年10月11日 日曜日
映画「望み」のポスター
堤幸彦監督作品「望み」を観ました。原作は雫井脩介(しずくい しゅうすけ)さんの同名小説です。
一級建築士の石川は、京都の高級住宅街で本の校正をしている美しい妻(貴代美)と、スポーツマンで男前の息子(規士)、可愛くて成績優秀な中学3年生の娘(雅)と共に、自身が設計したモダンな自宅兼設計事務所で順風満帆に暮らしていました。
息子の規士(ただし)は膝を負傷して、名門サッカークラブを辞めて以来、遊び仲間が増え無断外泊することが多くなっていました。そんなある日、規士が家を出たきり帰ってこなくなり、連絡も途絶えてしまいます。やがて、規士の同級生が殺害されたニュースが流れ、刑事から規士が事件に関与している可能性が高いと知らされます。関与している少年は規士を含め3人。うち犯人とみられるのは2人と推測されますが、3人とも行方は不明なままです。
規士が殺人犯なのか被害者なのかわからない中、犯人であっても息子に生きていてほしい貴代美と、被害者であっても彼の無実を信じたい一登、加害者の妹にはなりたくない雅。
誰もがうらやむ幸福に満ちた家庭の息子が、未成年による殺人事件に関与してしまった時、息子は、兄は「加害者」と「被害者」どちらであってほしいか。家族それぞれの「望み」が交錯する、心理サスペンスの傑作でした。
堤幸彦監督といえば、2013年公開の「くちづけ」2018年公開の「人魚の眠る家」。雫井脩介さんの作品を映画化したものでは、瀧本智行監督で2007年公開の「犯人に告ぐ」原田眞人監督で2018年公開の「検察側の罪人」がありますが、いづれもシリアスな人間模様、社会模様を描くという点では共通しており、その二人の組み合わせとあって、どんな感じに仕上がるか楽しみにしていました。
息子が生きていても、死んでいても、どちらにしろ家族は重い十字架を背負うことになる物語とわかって切ない気持ちになるのですが、まだ行方不明という事実以外わからない段階で、規士が犯人であるという印象を与えるテレビの報道や、それを見た人々がネットで正義をふりかざして暴力的書き込みをしたことにより、社会的に追い込まれていく家族の姿が一番印象に残りました。

2020年10月15日 木曜日
第7回転倒予防学術集会のポスター
10月10日、11日の日程で東京の中野サンプラザで開催予定だった転倒予防学会第7回学術集会はコロナ禍の影響により今回はオンラインでの開催となりました。
通常の学会では複数の会場で発表時間が重なって参加できないセッションもありますが、オンラインではそれがなく、自分のペースですべてを視聴できるのはオンラインならではです。
いわゆる寝たきり状態になる原因は脳卒中、認知症についで転倒による骨折が多く、転倒予防とは介護予防と言い換えてもよいと思います。そして介護予防とは医学だけでは成立せず、工学や栄養学、心理学、社会学的なアプローチも必要で、転倒予防学会は学際的な研究の場の一つとして機能しています。
医学的アプローチでは、ロコモティブシンドロームの研究に代表される運動器の健康に関する論文が多いのですが、視覚に関するものは意外と少なく、転倒予防指導セミナーで、慶應義塾大学医学部眼科学教室の結城賢弥先生による「緑内障と転倒や転倒恐怖感」一般口演 疾患と転倒、鹿児島大学病院の津曲斉大さん等による「眼科病棟における環境整備に関する看護師の視点」の2演題だけでした。
「緑内障と転倒や転倒恐怖感」では、視野狭窄が下方にある人ほど転倒リスクが増すことがわかりました。「眼科病棟における環境整備に関する看護師の視点」では、、看護師さん個々のロービジョン体験学習と、過去に起こった転倒事例の情報などを病棟で共有すること、また、ベテランの看護師さんと新人看護師さんで二人一組のコンビを組み、良きパートナーとして、お互いの特性を活かし、相互に補完し協力し合いながら看護提供をすることが、視覚障害患者の入院環境整備を的確に行う事につながることがわかりました。
どちらも興味深い内容ではありますが、わが国には10年以上も前からロービジョンケアを実践されている眼科医、視能訓練士がロービジョン学会を組織しています。そこで得られた知見なども参考にして転倒予防に取り組んでいけば、更に実践的かつ効果的なアプローチが可能になると思いました。

2020年10月23日 金曜日
「人生に必要な教養は中学校教科書ですべて身につく」の表紙
2009年にITパスポート国家試験を受けた時に、中学レベルの数学問題を間違えたことは前に書きましたが、他にも教養のない自分を思い知らされることは多々あります。
今回紹介する佐藤優さんと池上彰さんの共著「人生に必要な教養は中学校教科書ですべて身につく」は、世代に関係なく教養不足の自覚があるなら、今からでもそれを身に付けていこうという提案の書です。

序章:ブレインストーミング 今なぜ「中学の教科書」か
第1章:地理 地理が読み解ければ“世界”が見える
第2章:歴史 人類の出現から現代まで、一気に「大河」を下る
第3章:公民 社会の仕組みをインプットして足元を固める
第4章:理科 日常が科学で成り立っていると知る
第5章:数学 コトの真偽を見極めるための土台
第6章:国語 中学の教科書は現代文教材の「完成形」
第7章:英語 ひたすら音読して、「中三レベル」をキープする
第8章:道徳 自分と他人の「スタンダード」を知る
という構成で、現在使われている中学校の教科書12社54冊を読み比べて、実際の教科書の記述や図表も引用参照しながら、最新の教科書を紹介しています。本文はすべて池上さんと佐藤の対談形式なのでスラスラ読めて、彼らすら知らなかったという記述内容についても語られており、まずはこの1冊に目を通すだけでも教養になると思います。
半世紀前、学校の教科書といえば無味乾燥で、そこにラインマーカーで色をつけたり、メモを貼り付けたりして、自分なりの意味付けをして自分だけの教科書を作って使っていましたが、今どきの教科書は「なぜ、勉強しなくちゃいけないの?」という勉強の本質に答える工夫で満ちていて、勉強のための勉強ではない、実践的な知識と結びついていることが驚きでした。
例えば数学であれば、標本調査とはどういうものか、平均値と中央値の違いなどコラムできっちり補足されているし、理科であれば、電磁誘導についてファラデーの原理が、実は「非接触型ICカード」に使われているといった具合に、教科書に書かれた内容が試験のために覚えなくてはならないもの」から「自分たちの社会を理解するために有意義な知識」を得る内容になっています。
これからAIが席巻する世の中を生き抜くためには付け焼刃の知識ではダメで、まずは基礎を再学習する。社会の深層を見据えるためにはここから始める必要があると著者は言いますが、もう一つ、教養がある人のそばにいて、その人の言葉を聴くことも大切だと思います。
かつて済生会新潟第二病院の診察室で、一流の学者や人生経験者の話が聴けて、質問までできる機会を無料で提供していた医師がいました。先生は卓越した医術を持ちながら、患者さんの話を聴くことも大切にする、まさに教養人でした。そして、そこに集う私たちは豊かな気持ちになれました。

2020年10月25日 日曜日
映画「朝が来る」のポスター
河瀬直美監督作品「朝が来る」を観ました。原作は辻村深月さんの同名小説です。河瀬監督といえば2017年公開の「光」で、弱視(ロービジョン)のカメラマンと、視覚障害者向けに映画の音声ガイドを制作する女性が、それぞれに光を求めて葛藤しながら心を通わせる心理描写を、風景の変化で表現しいるところがすごくよくて、本作も楽しみにしていました。

無精子症のために子供に恵まれなかった栗原佐都子、清和夫妻は、テレビで特別養子縁組という制度があり、それを仲介するNPO法人ベビーバトンの存在を知ります。そこをを通じて念願の赤ちゃんを迎えて6年、朝斗と名付けた息子の成長を見守る夫妻は平穏で幸せな日々を過ごしていました。そんなある日、朝斗の生みの母親で片倉ひかりと名乗る女性から「子供を返してほしい、それが無理ならお金を下さい」という電話がかかってきます・・・。特別養子縁組で子供を迎えた夫婦と、中学生で妊娠し子供を手放すしかなかった幼い母親の葛藤と人生を描いた社会派サスペンスで、産みの母と育ての母、あまりにも切ない、ふたりの母親の物語でした。

実の家族からは世間体ばかりを気にして本当の自分と向き合うことを拒絶されてきたひかりが、子供を託した家族の中では「広島のお母ちゃん」として存在していた、それが、ひかりにとってどれほどの救いになるか。エンドロールが流れ、映像がなくなった後の最後の朝斗の一言に涙しない人はいないと思います。
血のつながらない家族の物語といえば、2018年公開の是枝裕和監督作品「万引き家族」が思い出されますが、本作は家族とは何かを改めて問いかけてくるようでした。

2020年11月18日 水曜日
リフォーム工事
先月12日より始まった補修工事。内装は予定通りに終わりましたが、外装は天候に左右されるので思うようにいきません。今日、明日は天気も良く気温も高く、作業も進むと思うので今月中には完了できるのではないかと思っています。
さて、メディアは新型コロナウィルスの流行が冬を迎えて拡大しつつあることを伝えています。そんな中GoogleからCOVID-19感染予測(日本版)のリリースがありました。このサービスは予測開始日から将来14日間におけるCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)陽性者数や死亡者数などの予測を提供するものです。
日本版では予測開始日から将来28日間に予測される国内の陽性者数や死亡者数等の予測値を表示します。厚生労働省が発表している新型コロナウイルス感染症陽性者数および死亡者数等のオープンデータ、Googleのコミュニティモビリティレポート、平成27年国勢調査結果などをもとにした予測モデルが採用されています。陽性者数や入院、療養等患者数、死亡者数、また人々の移動状況について国内のデータを使用しているため、予測結果には国内の感染状況やそれに対する人々の反応、さらに生活環境といった日本独自の状況が反映されています。
ちなみに新潟県の11月16日から12月13日までの予測は、陽性者数は68人、死亡者数は3人となっています。11月18日現在、陽性者数は46人、死亡者数は0人ですが、新潟市の老人保健施設でクラスターが発生したことを考えると予測を上回ることも十分考えられます。

2020年11月28日 土曜日
新潟県新型コロナお知らせシステムのチラシ
新潟県新型コロナお知らせシステムに登録しました。
このシステムは当院を利用された方に感染が判明し、他の患者さんへの感染の恐れがある場合に、同じ日時に利用された患者さんに対して新潟県からメッセージが届くというものです。このシステムはLINEを使っているため厚労省がやっているCOCOAのような専用ソフトウェアをインストールする必要がありません。
使い方は、まず新潟県を友だち登録し、来院された際に当院に掲示してある専用QRコードを読んでもらうだけです。
経済の停滞を抑えることと、医療の崩壊を抑えること、この相反する問題を解決するためにはどうしたらいいのか。これまでの、こまめな手洗いと消毒、換気、マスクの着用、なるべく人混みは避けることのほかに、情報システムの活用も有効だと思います。ただ、一定人数以上の利用がないと効果がないわけで、新潟県はもっとこのシステムの宣伝をすべきでしょう。

2020年12月13日 日曜日
映画「サイレントトウキョー」のポスター
波多野貴文監督作品「サイレント・トーキョー」を観ました。原作は秦建日子(はた たけひこ)さんの同名小説です。
12月の東京。テレビ局に「ショッピングモールに爆薬を仕掛けた」という電話がかかってきます。半信半疑でカメラをかついで取材に向ったテレビ局のバイトの青年と、たまたま買い物に来ていた主婦が事件に巻き込まれ、真犯人の謀略で2人は爆破事件の犯人にされてしまいます。しかし、この時は爆発は起ったものの、真犯人の計画通り死傷者はなく終わりました。それからほどなくして次の犯行予告がYouTubeにアップされます。真犯人からの要求は、テレビの生放送での首相との対談で、要求を拒否したら渋谷のスクランブル交差点に仕掛けた爆薬をクリスマスイブの午後6時に爆発させるというものでした。
刑事は必死に犯人を追いますが目星すらつかないまま、イブの午後6時、すさまじい閃光と爆風が、人であふれかえる渋谷の街が地獄に変わるのを呆然と眺めるのでした・・・。
本作は真犯人は誰かという謎解きと、その裏に隠された人間ドラマが、登場人物それぞれの視点でスピーディーに展開されて、事件を起こす者、事件に翻弄される者、事件を追う者、裏に潜む政府、マスコミ、一般市民の様々な思いが行き交う、クライムサスペンスの傑作でした。
さて、本作のテーマソングであり、クリスマスソングの定番であるジョンレノンの「Happy Xmas」。この曲にはクリスマスを祝うだけでなく、戦争は終わるよ(War Is Over)という平和を願うメッセージが込められています。エンドロールに流れる「Happy Xmas」を聴きながら、この作品に、これ以上ふさわしい楽曲はないと思いました。

2020年12月19日 土曜日
小説「時限感染」の表紙
長岡駅東口の本屋さんで「時限感染 殺戮のマトリョーシカ」という背表紙を見つけ、思わず手にとりました。世界が新型コロナウィルスによるパンデミックに揺れるこの時期にタイムリーなタイトルだったことと、作者の岩木一麻さんは農学部出身で国立がん研究センターと放射線医学総合研究所でがん研究に携わった経験があり、本作は先端科学の現場から生まれたフィクションであるということが瀬名秀明さんのファンである私には魅力的でした。そして期待通り、その専門知識を大いに活かしたリアルなディティール、ストーリー展開は、他の著者では味わえないものでした。
都内でヘルペスウィルス研究者の首無し死体が発見され、現場には引きずり出された内臓のほかに、寒天状の謎の物質と「マトリョーシカによって、数十万人の命を奪う」というバイオテロ予告文が発見されるところから物語は始まります。
徐々に筋肉が萎縮していく難病(ポンペ病)を抱えた女性刑事の桐生は、東京大学理科二類出身にも関わらず国家公務員一種試験ではなく、警察官採用試験で警察官になったという一風変わった鎌木刑事とコンビを組み事件を追うことに。捜査を進める間にテレビ局に犯行声明文が届き、史上最悪のバイオテロ予告が世の中に知れ渡り、生物兵器による無差別攻撃の脅威にさらされた社会は大混乱におちいります。
桐生刑事の病気にかかわる記述の多さ、タイトルの「時限」の意味、冒頭で殺害されたはずの研究者が何故か生きていることになっている?大胆な仕掛けと徐々に明かされていく事件の真相。
この作品が刊行されたのは2018年9月なので、新型コロナウィルスが現れる半年前ということになります。本書にもメッセンジャーRNAとか、PCR、ウィルス拡散の条件など、この1年の間に頻繁に聞かれるようになった言葉が次々に登場し、よりリアルなものとして感じました。
医療経済の問題や、先端技術と倫理の問題をも内包した読み応えのあるサスペンスでした。

2020年12月29日 火曜日
「僕がPCR原理主義に反対する理由」の表紙
新型コロナウィルスをめぐる問題で、今も声高に「PCR検査を国民全員に」を主張する人がいますが、これは本当に科学的に正しいのでしょうか?感染症専門医の岩田健太郎さんは著書「僕がPCR原理主義に反対する理由」で、最前線の感染症医療の現場で培った知見を元に、検査は万能ではなく、医者という「人の知恵」があってこそ初めて意味を持つこと、新型コロナウィルス論にとどまらず、私たちが持っている医療観の誤りを指摘し、臨床医の立場から市民が知っておくべき知識と感染防止策を提案しています。
PCR検査については、感度、特異度、閾値、事前確率と事後確率がポイントになり、これを考えるのが医師の仕事であって、やみくもに検査をしても医療資源の無駄遣いになってまうだけで、感染拡大防止の観点からみても意味がないといいます。でも、「念のためPCR」を導入している病院の医師も、そんなものに意味がないことを実は理解していて「どこか」からの同調圧力などで検査を実施しているケースも多いのではないかと思いました。
本書で印象に残ったのは、数字とは主観であるという岩田さんの見解で、例えば、1000円の定食は高いのか、安いのか。それを決めるのは、それぞれの人の主観で、仮に東京都で1000人の新規感染者が出たとして、1000人というのは多いのか少ないのかという判断も主観に左右されます。だから一日の新規感染者数は「解説」とセットになっていなければ客観的データにならないというわけです。確かに専門知識がない患者さんに検査数値だけを伝えて、それが、どの程度のものなのか伝えなければ、ただ不安にさせるだけです。
原発事故などもそうですが、科学の問題が市民生活に大きな影響を与えるような時、それは医師(専門家)と患者(市民)の関係性と同じで異文化コミュニケーションであるという自覚がお互いに必要です。特に専門家はそれを意識しなければよい結果につながらないと思います。そういう意味で岩田先生は臨床医としても優れていて信頼できると感じました。

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