日常のささいなことを綴った不定期更新の日記です
2024年11月21日 木曜日
「その医療情報は本当か」の表紙
田近亜蘭さんの著書「その医療情報は本当か」を読みました。
体の具合が悪い時、とりあえずスマホで検索してみるという行為は今や日常です。インターネットが普及する以前は「家庭の医学」のような分厚い本を調べるしかなかったものが、簡単に医療情報にアクセスできるようになったわけです。しかし、この便利さの一方で情報が不正確だったり、間違ったりしていることも頻繁にあります。さらに、意図的にニセ情報が流されていることもあり、ネット情報はもはや安易に信用できないのが現状でしょう。(特にSNSは)このことについては腫瘍内科医の押川勝太郎さんをはじめ、多くの現役医師が注意喚起をしています。本書は、

第1章:日本の新聞の医療情報は偏っている
第2章:五月病、HSP、カサンドラ症候群、自律神経失調症、それは病気なのか?
第3章:「うつ病の再発率60パーセント」は本当か
第4章:医療広告に「体験談」「回数無制限」「施術前後の写真」は禁止
第5章:健康食品やサプリメントの表示には法律規制あり
第6章:ギャンブラーの思い込み、確率、数字のトリックを見やぶる
第7章:医療のエビデンスには6つの「レベル」がある
第8章:確かな医療情報は「診療ガイドライン」にあり
第9章:「がん情報サービス」わかりやすい公式情報はここにある
第10章:ジャーナルに掲載の医学論文にアクセスする方法
第11章:医療情報の「見極めかた」と「誤りを信じ込む心理」

という構成で、進化するヘルスリテラシーと向き合い、本当ではない医療の定説や広告に惑わされないための注意点やコツ、また、ネット上の信頼できる情報源と、それらにアクセスして確かな情報を得る方法などが具体的に紹介されています。また、研究や治療の現場で用いられるエビデンス(科学的根拠)の分類(通常はレベル1から6までに分類されます)や診療ガイドライン(医師向けの診察の手引書。最近では患者向けのものもあります)とは何かなどについても解説されています。
疑わしい医療情報に接したとき、まず注意しなければならないのは、それが「悪意をもって報じられた可能性がある」のか、または「悪意なく報じられたものであっても、事実として間違っている可能性がある」のかを区別することだと著者は指摘します。
前者は、病気になったときの人間の心理の弱みをついて、意図的に症状や治療の効果などを誇張したり操作したりしているので、明らかにウソです。本書では第四章で論じている虚偽広告や誇大広告などがこれに該当します。
後者は悪意はなく、絶対に間違っているとまでは言いきれないものの、現時点では正確だとは言えない情報です。例えば、ある病気に対して一般的に行われていた治療法が、5年、10年を経て新しいエビデンスが蓄積され、当初ほどの有効性が認められなくなることはよくあることです。

最近、書店の健康本コーナーに、「これが最新〇〇障の治療法」とか「人生が変わる〇〇障手術」とか、センセーショナルなタイトルの本が並んでいます。多くの場合、著者は「開業医」で版元も有名な会社(例えば、幻冬舎など)であることが多いです。
一見すると、著者に原稿料や印税などが支払われる一般書であるように見えます。しかし、実のところ医学の専門家ではないゴーストライターが資料を基に原稿を書き、著者が出版社にお金を払って出版する広告本です。
あくまでも書籍であり医療広告ではないから、病気になった時の人間の心理の弱みをついて、意図的に症状や治療の効果などを誇張したり操作したりしていることにならないという論理は成立しますが、信頼に足る医療情報とは言えないのではないでしょうか。でも、多くの人は疑うことさえできないでしょう。

本書で一番印象に残ったのは、メディアでみかける「本当orウソ」「めちゃくちゃよく効くorまったく効かない」といった、白か黒かの二分法で表現される情報は、センセーショナルで目を引くけれども、多くの真実はその両極間の微妙な濃淡の中、極端ではないあたりに存在する。真実はさほど面白くないところにあるという指摘です。

本書でも紹介されている信頼できる医療情報サイト。
がん情報サービス
がん診療ガイドライン
Mindsガイドラインライブラリ

2024年10月31日 木曜日
「老後ひとり難民」」の表紙
沢村香苗さんの著書「老後ひとり難民」を読みました。
社会問題化している「一人暮らしの高齢者」が抱える問題をまとめたレポートです。初版が2024年7月30日、同年9月20日に第5刷発行のベストセラーとなっており、私を含め明日は我が身と不安に感じている人が、いかに多いか想像できます。
第1章:高齢者を支える制度は、何を見落としてきたのか。
第2章:公的制度からこぼれおちる「老後ひとり難民」たち。
第3章:「老後ひとり難民」が「死んだあと」に起きること。
第4章:民間サービスは「老後ひとり難民」問題を解決するのか。
第5章:「老後ひとり難民」リスクの高い人がすべきこと。
という構成で、頼れる人がおらず、厳しい現実と向き合わざるを得ない高齢者が直面するであろうトラブルと、それを回避する方法を考える内容になっています。
私は長岡市の介護認定審査委員、民生委員として活動した経験や、来院される患者様との関わりから、自身が単身高齢者となった時にどんな問題が起こるかに想いをめぐらせます。常々考えることは、身体精神機能が衰えないうちに、備えるべきことを完遂しなければならないということです。
では「備えるべきこと」とは何か。本書でも指摘されていますが、直面する問題の代表は入院や手術、介護施設に入る際に求められる身元保証。他にも、退院後の生活の再構築、さらに心身の機能が低下した場合のサービスや住む場所の見直し、そして終末期医療に関する意向や死後事務に関する意向の表明、果ては今住んでいる家屋の処分、墓終、仏壇終と多岐にわたります。
そこで、本書で一番参考になったのは「身元保証等高齢者サービス事業者」の現状と課題です。高齢になり要介護状態となった時のために「介護保険」がありますが、介護保険は「面倒をみてくれる家族がいる」ことを前提に制度設計されているので、単身高齢者にはそこに至るまでのサポートが必要です。しかし、現在、公的なサービスは存在しません。そこで民間の身元保証等高齢者サービス事業者の利用を考えることになります。身元保証等高齢者サービス事業の内訳は
・「身元保証サービス」
・「日常生活支援サービス」
・「死後事務サービス」
になりますが、国による制度化はされていません。つまり、既存の医療や福祉と違い、監督官庁による指導も監査もないので、事業者により費用体系やサービス、その質にも大きなバラツキがあり、各法律の壁も多く、利用者が想定しているように機能するかどうかは未知数だと著者は指摘します。

元週刊文春記者で現在はフリージャーナリストの甚野博則さんは、高齢者ビジネスを取材している中で、身元保証等高齢者サービスは今一番闇の深い業種だと指摘します。甚野さんが取材した事業所の中で「まともな商売」だと思えたところは一つもなかったそうです。国の規制がかからない今のうちに稼いでおこうという輩が、どんどん増え、同時にトラブルの件数も増えているのが実態のようです。
このあたりのことは沢村さんも、総務省が行った実態調査の結果、半分以上の事業者からは回答を得られなかったという事実を挙げています。
では「終の信託」を安心して結ぶには、どんな注意が必要か。沢村さんは成年後見人(任意後見)を含めた身元保証等高齢者サービスを、ひとつの会社に任せず、それぞれ分散して依頼することも選択肢として考えるべきだと指摘しますが、果たしてどうでしょうか?

2024年6月、国は「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を発表しました。これは事業者が守るべきことが列挙されています。これによって利用者は事業者を選ぶ時のチェックポイントがわかるというものです。しかし、あくまでもガイドラインで、遵守しないからといって罰則はありません。
一刻も早い法整備を望むところです。

2024年10月20日 日曜日
映画「ジョーカー」のポスター
トッド・フィリップス監督作品「ジョーカー・フォリアドゥ」を観ました。
社会から背負わされた障害のため、生きにくさを抱えながら懸命に生きる主人公アーサー。ある夜、地下鉄で絡まれた相手を銃で撃ち殺してしまったことをきっかけに社会への反逆者となり、報われない市民の代弁者「ジョーカー」として祭り上げられる物語を描いた前作「ジョーカー」
続編である本作は、アーサーが収容された医療刑務所と、彼を裁く法廷が舞台。医療刑務所で知り合ったリーという謎めいた女性にアーサーは心惹かれますが、リーが惹かれたのは心優しいアーサーではなく、狂気のジョーカーでした。そして狂気はリーから市民へと、まるで感染するように拡散していきます。孤独で心優しかった男は悪のカリスマ、ジョーカーなのか。ただの人間、アーサーなのか。格差社会に渦巻く弱者の怨念が、社会を飲み込んでいくような物語でした。
フォリアドウとはフランス語で「二人狂い」を意味し、密接な関係にある2人が妄想のような症状を同時に発症する精神障害のことだそうです。

法廷劇だけでは地味な心情の変化や、妄想と現実が混然とするアーサーの心象風景を、ミュージカルのような歌とダンスで表現したシーンが印象に残りましたが、裁判もリーとの恋愛も予想外の展開で迎えるラストシーンは、なんだか虚しい気分になりました。
弱者は大切にされない社会が生み出したモンスターの心には、寂しさや、悲しさ、虚しさがいっぱいつまっている。このことに共感できる人が増えれば、もう少しマシな世の中になるのでは。そんなことを思いました。

2024年10月15日 火曜日
「がん」はどうやって治すのか
国立がん研究センター編「がんはどうやって治すのか」を読みました。本書は2024年9月にこのコーナーで紹介した「がんはなぜできるのか」の続編に当たり、がんが発生するメカニズムを生物学的な視点で捉えた前作とは違い、臨床医の視点から治療にフォーカスした内容となっています。

第1章:臨床医が考える「がんとは何か」
第2章:どんな検査で何がわかるか
第3章:治療方針はどのように決まるか
第4章:手術でがんを取り除く
第5章:放射線でがんをたたく
第6章:薬でがんをたたく
第7章:がん免疫療法でがんを追い込む
第8章:一人ひとりに合わせたがんゲノム医療

という構成で、さまざまな「標準治療」についてかみ砕いて説明するほか、ゲノム医療といった最先端の治療や、セカンドオピニオンの求め方なども紹介した内容となっています。
がん治療における「標準治療」とは、現時点で科学的根拠がある最善の治療のことを指しますが、いまだに標準とは並のことだと誤解している人も多く、上や特上の治療があるはずだと、わらにもすがる思いで科学的根拠のない治療(効果はないと証明されている)に大金をつぎ込んでしまう人も多いようです。
2人に1人が「がん」にかかる時代、本書は患者さんが適切な治療を選択するためのガイドとして、また、腫瘍内科医の押川勝太郎さんが提唱する「がん防災」という意味で、一読しておけば自身や家族、友人ががんに罹患した時の心構えができるのではないかと思います。
第1章から第3では、臨床医ががんという病気をどのように捉えているのか、治療を受ける前の検査について、治療方針がどのように決められるのか、医者はどんな設計図を描いて治療を進めようとするか、がん治療の全体像が見えてきます。
第4章から第7章では、手術、放射線治療、薬物療法、免疫療法について、どのような仕組みでがんを治療していくのか、効果と副作用を含めて詳細に解説しています。第8章では遺伝子情報に基づいた最新のがんゲノム医療の現状と将来の展望が語られています。
本書で一番関心を惹かれたのはゲノム医療についてです。これまでは臓器別だったがんの治療が、限定的とはいえ遺伝子情報に基づき、患者さん一人ひとりに合った治療法を選べる個別化医療が現実のものとなったことはすごいことだと思います。このゲノム医療の関連技術は、がんの原因に迫る新たな発見や、これまでにない新しい治療薬の開発にもつながっていくはずです。
以上のように本書は、がん治療ガイドとして、がん治療における最新医療技術の解説がされているわけですが、医療の質を考える時、患者と医療者の関係性は治療の満足度(結果の如何に問わず)に反映され、医療技術と同じくらい重要であると言われています。(押川さんもよく言及されます)忙しそうな医師に検査や治療の不安を打ち明けていいのか、セカンドオピニオンを打診していいのか、仕事との折り合いについて相談していいのか。患者と医師のコミュニケーションは、なかなかうまくいかないこともあり、時にそれは不信感につながり、トンデモ本やインターネット上の怪しげな広告に飛びついて大金を失い、、最も大切な治療のタイミングを逃してしまう結果になるのは悲しいことです。
こういった事態を避けるためには、本書を読むなど患者もできる範囲で医療の言葉がわかるようになることも有効だと思いますが、ここで何度も紹介している呼吸器内科医の吉峰文俊さんが提唱された「健康ファイル」というツールを活用することを勧めます。
今、マイナンバーカードに保険証の機能を持たせ、お薬手帳がなくても医師は患者の履歴を確認できて便利だと言われています。しかし、大切なことは患者が自身の状態をわかっていることです。「健康ファイル」は紙ですから検査の結果や、投薬されている薬の効果と副作用をすぐ読むことができます。また、余白に「この薬でふらつきがでた」「前の薬より効いている」など簡単にメモしたり、医師に聞きたいことを書いて診察時に持参すれば診察時間が限られる医師と良い関係性をつくる助けになるはずです。(患者とのコミュニケーションは必要ないと考える医師の場合は無効)健康ファイルについてはCaseFileのコーナーをご覧下さい。
最近、森永卓郎さん、梅宮アンナさん、山田五郎さんなど、有名人ががん闘病を公開していますが、同じ病名であっても、がんという病気は個別性があり、同じ治療法が自分にとってベストとは限りません。自分の状態を一番把握し、最善の治療法をアドバイスしてくれる主治医の言葉に耳を傾けることが良い結果につながると思います。

がん防災マニュアル

がん情報サービス

2024年10月4日 金曜日
金融調査のチラシ
銀行から「お客さま情報の確認に関するご協力のお願い」なる調査用紙が届きました。
書類を読むと個々の銀行が顧客に対して行う調査という形ではあるけれども、取りまとめているのは金融庁で、複雑化、高度化するマネーロンダリング、テロ資金供与対策における防止措置の一環として、一般市民の口座情報を把握したいということのようです。
調査項目は住所、氏名、生年月日、事業の内容の確認、銀行取引の内容などですが、本人確認をする書類として運転免許証、運転履歴証明書、保険証のいづれかをコピーし、添付することとなっていました。
政府はマイナンバーカードを保険証として、運転免許証として使うことには不安があるという市民の声がある中、12月で紙の保険証を廃止する予定に変更はないとしているわけですが、今回の調査などは、マイナンバーカードを使えばネット上で完結できるわけです。しかもマイナンバーカードを本人確認としてさえ使用しないというのは、いったいなぜなのでしょうか?

Internet Explorer 8.0以降でご覧ください。