2022年10月、11月、12月分の日記です。
2022年10月13日 木曜日
「コロナワクチン失敗の本質」の表紙
日本では2020年1月に始まった新型コロナウイルス感染症パンデミック。2年余りが経過した現在はオミクロン株による第7波がピークアウトした状況です。しかし、厚労省は第8波と季節性インフルエンザが、年末にかけて重なって流行する可能性が高いという予測をしています。
ワクチンは現在流行しているオミクロン株BA5対応版が国の特例承認を受け、10月13日から接種が始まるようです。このワクチンに関しては生後6ヶ月〜4才の人も、5才以上の人同様に接種は「努力義務」が課せられています。
60才以上、医療福祉従事者、BMI30以上、生活習慣病などに罹患している人は、政府が推奨したワクチンを全て接種したとすると、最初に流行した武漢株対応版ワクチンを基本2回、ブースターを2回接種しており、BA5株対応版を接種すると1年余りの間に5回接種するということになります。

科学における正しさは、権威や多数決ではなく、根拠となるデータに基づいていなければならないわけですが、私にはそれを判断するだけの知的体力がありません。しかし、政府に健康管理までしてもらうつもりはないので、新型コロナウイルスが流行してから、ウイルス、免疫についての関連書籍はもとより、信頼に足ると思われる科学者が、所属と氏名を公表して提供している情報なども参考に学習し、効果的と考えられる予防を実践し、ワクチン接種の可否を判断してきました。勿論、これはあくまで自身に対してで、家族や他人に自分の考えを押し付けたことはありません。

それにしても、人類史上初となるmRNAワクチンを、短期間の間に5回も接種して本当に大丈夫なのか?

政府のアドバイザリーボードに名を連ねている科学者が肯定するのは当然でしょうが、否定的な考えを表明している科学者もいます。どちらも信頼性の高いジャーナルに発表された論文をもとに高い専門性を持って議論しているので、どちらが正しいのか、判断するのは難しいです。
今回読んだ「コロナワクチン失敗の本質」は内在性レトロウイルス学が専門の研究者、宮沢孝幸さんと、医療分野を中心に活動しているジャーナリスト、鳥集 徹(とりだまり とおる)さんの共著で、

第1章 コロナワクチンの「正体」(集団免疫は獲得できなかった。集団免疫に懐疑的だったワクチン研究者たち)
第2章 コロナマネーの深い闇(安全性に関する議論は尽くされたのか。新型コロナは「賭け」に出るべきウイルスではない)
第3章 マスコミの大罪(ワクチンの話はしないでください。政府の情報を垂れ流しているだけ)
第4章 コロナ騒ぎはもうやめろ(形骸化している感染対策。アルコール消毒液に含まれている「不純物」)

という構成で、ワクチン接種が始まった当初から、ワクチンの安全性と有効性を慎重に見極めるべきだと警鐘を鳴らしてきた著者二人が、このワクチンの正体とコロナ騒動の不可解な部分に迫るという内容です。ただ、エビデンスを示してワクチンの安全性や有効性を論じているわけではなく、対談形式で疑問点や異論を述べるにとどまっています。

コロナウイルスの感染メカニズムから、ワクチンの感染予防効果を決めるのは、上気道の粘膜表面にIgA(免疫グロブリン)がどのくらい誘導されるかで、血中の中和抗体の量ではないことは常識というところから始まり、論点はいくつもあって、特に関心をひかれたののは

・mRNAワクチンでなぜ人体に害が起こり得るか
・LNP(脂質ナノ粒子 ワクチンの主成分)がどう代謝されていくのかわかっていない
・コロナ後遺症とワクチン後遺症が似ている理由
・mRNAは体内でも短時間で分解されるのか
・逆転写によるがん化のリスク
・免疫システムを混乱させている可能性
で、
mRNAは体内でも短時間で分解されるのかという問題では、送り込むmRNAが免疫によってすぐには分解されないように、シュードウリジン化をしてあるので実際には短時間では分解されることはない。
免疫システムを混乱させている可能性では、自然免疫で樹状細胞の受容体であるTLRが外界からの異物の分子構造をパターンとして認識する機能が、シュードウリジン化され自然界には存在しないmRNAには働かない。といった指摘がありました。

昨年、第一三共株式会社が開発した、単純ヘルペスウイルスを使った悪性脳腫瘍に対する治療薬「デリタクト」が承認されました。
重い脳腫瘍患者対象の治験で、従来の標準治療で15%だった1年生存率が84.2%に上昇。カギはウイルスの「増殖力」でした。遺伝子組み換え技術で、ウイルスをがん細胞でだけ増殖、がんを破壊させることを可能にしたものです。更にメラノーマ(悪性黒色腫)など、さまざまな固形がんに応用する臨床試験も開始、転移したがんへの効果も期待されています。また、前出のmRNAワクチンが自然免疫を混乱させることを逆手にとった自己免疫疾患の治療に応用する研究も進んでいるようです。

本書の腰帯には、
弱毒化する「新型コロナウイルス」
将来的に未知の部分がある「mRNAワクチン」
どちらが怖いですか?
と書かれていますが、自然科学に絶対はないことを知り、単純思考に陥らずに考えていくしかないと思いました。立花隆さんなら、このコロナウイルスパンデミックをどう捉えたでしょうか。

2022年10月17日 月曜日
小説「フェイスレス」の表紙
黒井卓司さんの小説「フェイスレス」を読みました。ジャンル的にはパニック小説で、パラレルワールドというSF的世界観の中で起こる予測不可能でスピード感のある展開に、次々とページをめくらずにはいられませんでした。

製薬会社でシロアリを研究している早川透は、有能な先輩、北岡直樹の婚約者である伊藤可奈恵に密かな想いを寄せていました。ある日、透は同乗させてもらった北岡の車の不具合に気づきますが、可奈恵を手に入れた北岡に対する嫉妬心から黙っていました。結果、運転を交代した可奈恵が事故を起こし、透と可奈恵は一命を取りとめますが、北岡は顔面が潰れて死んでしまいます。透は深く傷ついた可奈恵を支え、やがて彼女と結婚し娘が生まれます。
それから9年後。アメリカである実験が行われます。アリの殺虫剤のテストという名目でしたが、そのアリは被験者15人に襲いかかり口、目、鼻などから体内にもぐりこみ、内蔵や脳を食いちぎり、あっという間に血まみれの肉塊にしてしまいました。
実は、9年前に世界は誰にも気づかれないまま二つに枝分かれしており、アメリカ政府はネバダ核実験場の通称「チューブ」を通じて、もうひとつの世界のアメリカを「向こうの世界」と呼び、秘密裏に交流していました。そして、偶然チューブを通過してしまったアルゼンチンアリが向こうの世界で交配し、誕生したのが、この恐るべき殺人アリでした。
一見、何の関係もない2つの出来事。それが1つの線で結ばれる時、世界を揺るがす陰謀が透を呑み込み、彼の運命は大きく変わっていきます・・・。

パラレルワールドがチューブと呼ばれる空間でつながっていて、双方の世界の生き物が交配すると一世代で瞬間進化するという設定が面白く、「向こうの世界」の北岡は何が目的で殺人アリをこちらの世界に持ち込んだのか?その北岡を追いかけてきたF(フェイスレス)と名乗る人物の正体は誰なのか?という謎解きも楽しめました。しかし、それにもまして読者を圧倒するのがラストシーン。ひとりの女に対する男の情念が世界を守るのか、それとも破滅させるのか。
読み手によって結末が分かれる珠玉のエンターテイメントでした。

2022年11月6日 日曜日
映画「天間荘の三姉妹」のポスター
北村龍平監督作品「天間荘の三姉妹」を観ました。原作は橋ツトムさんのマンガ「天間荘の三姉妹−スカイハイー」です。
東日本大震災をモチーフに、私たちは大きな悲しみにどう寄り添うべきなのか?いのちとは、生きるとはどういうことなのか?誰にとっても他人事ではないテーマを、観客の心に問いかけながら見つめていく、そんな作品でした。

舞台は天界と地上の間にある海辺の美しい街、三ツ瀬。海を見下ろす高台に老舗旅館「天間荘」はあります。切り盛りするのは若女将、天間のぞみ。のぞみの妹、かなえは水族館でイルカのトレーナーをしています。
物語は、のぞみたちの腹違いの妹、小川たまえが宿泊客として天間荘に来るところから始まります。
のぞみとかなえの母で天間荘の大女将、恵子は、ふてくされて出てきません。というのも、ここから逃げ出した夫の清志が、よその女に産ませた子供を迎えるのが嫌だったからです。
天間荘に来る途中のタクシーで、たまえを連れて来るイズコと名乗る謎の女性は「天間荘で魂の疲れを癒して、元の肉体に戻るか、そのまま天界に旅立つかを決めなさい」と言います。たまえは地上で交通事故にあい、瀕死の状態に陥っていたのです。しかし、たまえは客としてではなく天間荘で働きたいと言い出します。子供の頃に母を亡くし、父も「11年前に行方不明」の天涯孤独だったたまえは、歓迎してくれた異母姉妹に親しみを覚えたからかも知れません。
天真爛漫で元気いっぱいなたまえの働きぶりは、天間荘の先客で小言やイヤミばかり言う老婦人、財前玲子の屈託ある心を溶かしていきます。たまえを拒否していた大女将も、そんなたまえにいつしか心を開くようになっていくのでした。
こんな楽しい時間がいつまでも続いてくれますようにと願うたまえの前に、いじめが原因で自殺を図った芦沢優那をイズコが天間荘に連れて来ますが・・・。

地上では孤独だった、たまえが天間荘で家族や友人と呼べる存在に出会い、居場所を作っていきますが、物語が進むにつれて大きくなっていくのが三ツ瀬という街の違和感です。三姉妹の父親である清志の登場から三ツ瀬が、地上と天界の間に存在する理由、天間荘の宿泊客が地上で生死をさまよっている人たちばかりである理由が明らかになっていきます。
不思議な世界観と、優しいメッセージの込められた本作、テーマがはっきりしているので、2時間30分という上映時間を感じさせない、いつまでもこの世界観に浸っていたい、そんな想いにさせる作品でした。
「のぞみ・かなえ・たまえ」この名前を聞いて私と同世代の人は懐かしく感じると思うのですが、この名前を持つ三姉妹がめぐり合う意味を想うとき、本作のテーマが見えてくる、そんな気がしました。

2022年11月18日 金曜日
「日本人の遺伝子」の表紙
雑誌Tarzan842号に、医師が意識している自身の健康に関するアンケート結果をまとめた「23人の名医に聞いたお医者さんのリアル」という記事が掲載されました。回答した医師の平均年齢は54.2才で、「自分がかかりたくないと思う病気を教えて下さい」という設問では、
1位 脳血管障害
2位 がん
3位 認知症
4位 心筋梗塞
ということで、片麻痺や失語症といったADLが著しく障害される後遺症を残す病気がトップでした。n=23ではインパクトはありませんが、循環器系の病気による後遺症を恐れる気持ちは、医師に限らず多くの一般市民も同じだと思います。

「何で病気になるのか?」古の人は悪霊や祟りのせいであると考えましたが、現代科学は遺伝子にその答えを見出そうとしています。
今回読んだ内科医の奥田昌子さんの著書「日本人の遺伝子からみた病気になりにくい体質のつくりかた」は、遺伝子と健康について「体の設計図ゲノムとは何か」から始まり、日本人の遺伝子と体質の特徴、遺伝的なリスクを抑えて健康に過ごすにはどうすればいいのかを分かりやすく解説しています。また、mRNAワクチンが作用する原理や、最先端の医療を理解するには不可欠なゲノム、遺伝子、DNA、染色体とは何かを整理して学ぶことができる良書です。

第1章 体の設計図が健康と病気をつくる
第2章 日本人の遺伝子と体質にはどんな特徴があるか
第3章 遺伝子についた小さな傷が病気を引き起こす
第4章 設計図の違いだけで「なる病気」は決まらない

という構成で、親から受け継いだ遺伝子は生涯変わることがないなから、糖尿病、認知症、がん、高血圧、肥満など様々な病気のリスクや体質は遺伝的なもので仕方ないと多くの人は考えていると思います。しかし、近年のゲノム生物学の進歩により、生活習慣や環境で遺伝子の働きが変わり、病気のなりやすさも変わることが明らかになってきており、遺伝子と体質の特徴を捉えていくと、どうすれば遺伝的なリスクを抑えて健康に過ごせるかが分ってくると著者はいいます。
病気になる基本的なメカニズムは、親から受け継いだ遺伝子多型(酒に強いか弱いかなど)とエピジェネティクス変異(遺伝子のスイッチとボリューム)という二つの要素、簡単に言えば病気のなりやすさがベースにあって、ここに生後に起きた遺伝子変異、エピジェネティクス変異が加わって発病します。なので、生まれ持った遺伝子のタイプと遺伝子の働く強さが生来の病気のなりやすさを決めてはいるけれども、生後の環境や生活習慣で防げる病気も多いというわけです。
このことが本書のキモなのですが、昆虫の変態を例に遺伝子にはスイッチとボリュームがあって、オン、オフとレベルを変化させているという説明は分かりやすかったです。たしかに蝶の幼虫、サナギ、成虫はそれぞれ全然別の生き物のように見えるけれどもゲノムは同じわけで、段階に応じてオンになっている遺伝子が異なり、それが形態の違いとして現れているということです。
このように遺伝子やゲノムで生体は変わるということは、環境や生活習慣に合わせてヒトの体も変わっていくということで「第2章 日本人の遺伝子と体質にはどんな特徴があるか」では、日本人の歴史の中で作られてきた体の特性が紹介されています。
日本人17万人のゲノムを用い、遺伝子変化が起きた時期とその継承を調べてみると、過去1〜2万年の間に変異が起きた遺伝子は、一定の方向に体の特性を変化させてきたといいます。
このなかでもっとも強い働きが「酒に弱くなる方向への進化」で、これを専門用語では適応進化といい、生存に有利な特性を獲得することを指します。つまり、日本人は酒に弱いほうが生存に有利だったということです。
ほかにも、日本人はやせ傾向なのに、好ましくないといわれる内臓脂肪がつきやすいことなど、体の特性、体質の多くは、生存にもっとも有利な遺伝子が残った結果ということです。
近い将来、個々人のゲノム情報をもとにオーダーメード医療が提供されるようになるのでしょうが、生まれ持った設計図であるゲノムをもとに作られた体質には強みと弱みがあること、生活習慣や環境で私たちの遺伝子は変化するという事実には驚きました。

2022年11月20日 日曜日
映画「ある男」のポスター
石川慶監督作品「ある男」を観ました。原作は平野啓一郎さんの同名小説です。
石川監督の作品は2017年公開の「愚行録」、2021年公開の「Arcアーク」を観ていますが、最近の映画にありがちな、すべてにセリフをつけないとストーリーが追えない観客向けに、ムダな説明のシーンが多い作品とは違い、どのシーンにもテーマを掘り下げていく意味がある撮り方は秀逸だと思います。
本作は、ミステリーの霧が晴れると、そこに差別とは、幸せとは、愛とは、というテーマが見えてくる、至高のラブストーリーでした。

里枝は、夫と二人の幼子に囲まれて幸せな生活を送っていましたが、次男に悪性の脳腫瘍が発覚します。夫と治療に関して意見が合わず口論からケンカになることもしばしばで、次男が亡くなってからも溝は埋められず、離婚してしまいます。
長男を連れて九州の実家に帰った里枝は、次男を失った心の痛みと向き合いながら、家業の小さな文房具店を切り盛りしていました。そんなある日、谷口大祐と名乗る男がスケッチブックを買いに店を訪れます。絵を描くのが趣味だという谷口に、いつしか里枝は惹かれていき、やがて長男も谷口に懐いて、里恵は再婚を決意します。
ただ、なぜか谷口は、実家は伊香保温泉で兄が旅館を営んでいるが、折り合いが悪く絶縁状態になっていること以外、過去のことを話したがらず、時折、鏡を見ると過呼吸発作を起こすことがありました。そんな谷口を採用した営林局の同僚の中には犯罪歴でもあるのではないかと疑う者もいました。
それでも、ここからの3年間は、女の子が生まれ、家族4人は幸せに包まれた暖かい日々を送ります。ところが、ある日の朝、谷口は長男にせがまれて、木の伐採現場に連れていきますが、事故が起きてしまいます。誤って倒れてきた木の下敷きになり、谷口は死んでしまったのです。
それから1年。納骨ということになり、いくら絶縁状態であっても、さすがに知らせないといけないと思った里枝は連絡をとり兄が訪れます。しかし、遺影を見た兄は「これは弟じゃない」と断言します。
谷口大祐でなければ、この3年間を過ごした人は誰なのか。里枝は本作の主人公である離婚裁判で世話になった弁護士、城戸章良に調査を依頼します。
城戸は、谷口大祐になりすました男「X」の正体を追う中で様々な人物と出会い、衝撃の真実を知ります。同時に城戸の中にも他人として生きた男への、共感にも似た複雑な思いが生まれていきます・・・。

物語の核になる「他の人になりたい」という切望に、なぜか温かな視線が感じられ、原誠(谷口大祐)が生きる懸命さが切々と伝わってきました。犯罪加害者家族や在日外国人問題、死刑制度など底の深いテーマを作品の背景に置いたことで社会の矛盾がより浮き彫りになり、そこには確実に差別がある現状を見据えたところが、作品全体に深みをあたえていると感じました。
社会から背負わされるスティグマの辛さは、当事者でなければ分からないものです。ヘイトスピーチのように、あからさまには言われなくても「あなたは○○〇だよね」という差別意識、あるいは卑下を言葉の端々、態度にを感じるものです。しかし、それの元になったインペアメント(犯罪加害者の家族のような社会的なものも含めて)は、その人の責任ではないし、その人の本質でもありません。
家族が笑い合う幸せの記憶は、里枝の「私が愛したのは誰だったのか?」という自問の答えとなり、弁護士の城戸には「ある男」に対する頭から離れない妄想を呼び起こすものとなりました。ここに、なぜ、他人の人生を生きることを求めたのか。なぜ、人は人を愛するのか。というテーマが集約されていたと思います。
幸せの記憶が映し出されるシーンで流れていたエルビスプレスリーのCan't Help Falling In Love(愛さずにはいられない)が強く印象に残りました。

2022年11月27日 日曜日
映画「母性」のポスター
廣木隆一監督作品「母性」を観ました。原作は湊かなえさんの同名小説です。湊かなえさんの原作で映画化された作品の中では、2010年公開の中島哲也監督作品「告白」が、イヤミスの女王、湊かなえさんの真骨頂とも言える、生々しい描写ゆえの後味の悪さを忠実に映像化していたと思います。
本作もミステリー仕立てになっていますが、謎解きというよりも狂おしいほどに母性を求める人の心理的葛藤を描いた心理ドラマで、湊かなえさんの世界観を堪能できる作品だと思います。

ルミ子は母が望むことを先読みし、母が喜ぶ姿こそが自分の幸福と思い込んで育ってきました。結婚相手も母が気に入ったからという理由で選び、やがて、清佳(さやか)を産んでも、ルミ子は常に母の愛に守られたい女性でした。ルミ子は母に褒められ、愛されることが何より大切だったのです。
清佳も母の愛を求めていました。しかし、清佳とルミ子の関係は、母と祖母の仲の良さとは正反対。ルミ子は清佳を可愛がることはありませんでした。それでも清佳はルミ子に従順に従い顔色を常に気にするようになります。清佳にとって唯一の救いは、祖母が清佳に愛情を注いでくれることでした。

ルミ子の結婚、出産から始まる物語。事件は夫が仕事で不在の、ある嵐の夜に起こりました。火事に見舞われ家は全焼。祖母が亡くなるも、ルミ子と清佳はなんとか助かります。
夫の実家で親子の生活が始まりますが、夫の実家は農家で義母は気難しく意地の悪い人で、ルミ子は徹底的にいじめられます。そんな生活が10年以上続き、清佳は高校生になります。ある日、学校の帰り道、仕事をしているはずの父親が街を歩いている姿を発見し後をつけます。そこで清佳が見たものは・・・。

母と娘、やがて娘は母となり、娘が生まれる。三代にわたる女性たちが生きてきた長い歴史と時間。そこにあった日常のエピソードを、ルミ子の視点、清佳の視点、それぞれで語られる物語は、同じ時を過ごし、同じ出来事を振り返っているはずなのに食い違っていきます。
ルミ子と清佳のシーンは心がヒリヒリするような緊張感で、清佳に対するルミ子の冷淡な態度は怖いほどでした。ルミ子の実母や義母の愛情もどこか歪んでいて母性神話を打ち砕くようでした。
自分は愛されて育ったのに、なぜルミ子は清佳に冷たいのか。その理由を知ると愛情が親から子へ受け渡されることは当たり前ではない、母性は自然発生するものでないかも知れないと思いました。また、ルミ子の夫の子供の頃から成長しない情けなさは、自分と重なったという諸兄も多いのではないかと思いました。

2022年12月5日 月曜日
クリスマスツリー
昨年まで使っていた昭和60年代製と思われるクリスマスツリーのデコレーションパーツがボロボロになり、代替品を探したのですが見つからず、ツリー全体を新調しました。
Amazonで送料込み2,799円でした。製造国は不明で説明書もありませんでしたが、特に問題なく組み立てられ、電池式のLEDも問題なく点灯しました。ただ、点滅しないのが残念。それと台座が紙なのがチープです。でも、価格を考えれば妥当なのかも知れません。昨日、アピタのおもちゃコーナーで同じようなものが5,000円くらいでしたから良い買い物だったと思います。
令和のツリー、どうでしょう(笑)

2022年12月7日 水曜日
コーヒーの木
今年の6月に長岡駅構内の花屋さんの店先で売られていたコーヒーの木。コーヒーカップの鉢がなんだかオシャレだし、値段も400円くらいだし、その日は雨も降っていなかったので、持ち帰るのも楽だしという理由で買いました。
あれから半年。ネットで調べて水やりやら、肥料やら、日当たりやら、それなりに考えて世話はしていたものの、先月くらいから下の葉っぱが黒くなって、引っ張ると取れてしまいました。でも、新たな葉も出てきていることから、大きな鉢に植え替えたら元気になるのではないかと思い、100円ショップで一回り大きな鉢を買ってきて植え替えました。本当は7月、8月が植え替え時期で、肥料も冬はやらないのがセオリーなので、どうなることやら。
世の中、良かれと思ってやったことが裏目に出ることなどいくらでもあること。もし枯れてしまったらゴメンね。
断っておくと仕事ではこんなことは絶対しません。わずかでも症状、症候に疑問があれば専門医をご紹介しています。

2022年12月11日 日曜日
映画「ラーゲリより愛をこめて」のポスター
瀬々敬久監督作品「ラーゲリより愛をこめて」を観ました。原作は辺見じゅんさんのノンフィクション小説「収容所(ラーゲリ)から来た遺書」です。
第2次世界大戦後、ソ連によりシベリアに作られた強制収容所(ラーゲリ)に抑留された元日本人兵士と、その家族の壮絶な半生を、実話を基に描いた作品です。
エンドロールが終わり明るくなっても、あちらこちらで感極まって泣いている人がいる、じんと胸にしみる作品でした。

1945年8月。満州国のハルビン(現在の中国)で、日ソ不可侵条約を破棄して侵攻してくるソ連軍の砲撃の中、主人公の山本幡男は家族と生き別れになります。妻と子供はなんとか日本に帰れましたが、山本はシベリアにあるソ連の強制収容所(ラーゲリ)に送られます。ここは、わずかな食料で過酷な強制労働が課され、死に逝く者が続出する、酷寒の地獄でした。
身に覚えのないスパイ容疑でラーゲリに収容された山本は、日本にいる妻、モジミや4人の子供と一緒に過ごす日々が訪れることを信じて、「生きる希望を捨ててはいけません。帰国(ダモイ)の日は必ずやって来ます。」と絶望する捕虜たちを励まし続けます。
劣悪な環境下では日本人同士の「いじめ」も絶えず、戦争で心の傷を負い傍観者を決め込む松田や、旧日本軍の階級を振りかざす軍曹の相沢に敵視されながらも、山本は分け隔てなく皆を励まし続けました。元漁師の純朴な青年、新谷には文字や俳句を教え、過酷な状況に耐えられず、慶応大学の後輩である山本をスパイとしてソ連に売った原にも「生きることをやめないでください」と声をかけ続けました。そんな山本の仲間想いの行動と信念は、多くの捕虜たちの心に希望の火を灯していきました。
終戦から8年が経ち、山本に妻からの葉書が届きます。厳しい検閲をくぐり抜けたその葉書には「あなたの帰りを待っています」と。たった一人で子供たちを育てている妻を想い、山本は涙を流さずにはいられませんでした。
それから数年が過ぎ、誰もがダモイの日が近づいていると感じ始めた頃、山本はがんに侵されていることが判明します。体はみるみる衰えていきますが、愛する妻、モジミとの再会を決してあきらめない山本。そんな彼を慕うラーゲリの仲間たちは、厳しい監視下にありながらも、山本の想いを叶えようと思いもよらぬ行動に出ます。そしてモジミに奇跡が訪れます・・・。

私の祖父は日中戦争で招集され満州に渡り、妻と5人の子供を残し、33才の若さで戦死しました。なので、末娘の母は父親の顔を知りません。当時、祖母たちは祖父の勤務先だった、山口県宇部市の炭鉱会社の社宅住まいでしたが、戦死が分かった時点で退職扱いとなり、祖母は故郷の新潟に帰るしかありませんでした。
今、我が家には祖父の遺品として、戦友だったという人が遺骨と共に届けてくれた軍隊手帳と、日中戦争に従軍した証の記章、功績があった者に与えられた勲章が二つあります。
軍隊手帳には、祖父が負傷した上官を牛の背に乗せ宿営地に帰ったことなど、日々の作戦行動が日記のように書かれいますが、これは戦友がせめてもの思いで書いてくれたものだと聞いています。
祖父がどんな思いで異郷の地で死んでいったか、それを知った祖母はどんな思いで新潟に帰ったのかを思うと、本作のストーリーと重なって涙があふれて仕方ありませんでした。

昨年放送されたNHKのETV特集「昭和天皇が語る開戦への道 日中戦争から真珠湾攻撃 1937-1941」は、昭和天皇がアメリカとの戦争を決断するに至ったその胸の内を敗戦直後に側近たちに詳細に語った記録を基に、ドラマ仕立てで見せる見応えのある番組でした。
激変する国際情勢の中、大元帥である自分が軍の勢いを止められなかったという悔恨の思いと、外交交渉に期待しながらも独ソ開戦で頓挫してしまったことなど、昭和天皇の苦悩が伝わってきました。
それにしても「勢い」が、日本人だけで300万人の命を奪う戦争につながったのは納得がいかないし、連日報道されるロシアとウクライナ戦争、強権的な中国と台湾問題、そして我が国の防衛費増強問題など、今の世の中も、その「勢い」の淵にあるのではないか、そんな漠然とした不安を感じている人も多いのではないでしょうか。

2022年12月21日 水曜日
大雪による渋滞の様子
18日、日曜日から降り始めた雪が19日、20日と降り続き、12月としては記録的な積雪量となりました。私の地域では20日までに130cmほど積もり、21日午前10時現在、JR、越後交通のバスも一部区間を除いて運休しているようです。
写真は19日、月曜日の午前中の、うちの前の県道の様子です。先にある信号機で渋滞が起き、トイレを貸してほしいという人が3人ほどありました。雪が原因の渋滞なんて初めてです。この日は駐車場の除雪が間に合わないほどの降り方で19日、20日とやむなく休診し、除雪に追われました。
20日の火曜日は新聞も届かず、ごみの収集も中止で朝から駐車場の除雪と屋根の雪下ろしをやり、スーパーに買い物に行ってみると、物流がストップしているためか商品が少なく、お客さんも少なかったです。
いくら雪に慣れているとはいえ、まとまった量が一気に降ったため、あちこちで混乱が起きてしまったようです。
23日から再び強烈な寒波がやってくるという予報ですが、「頼むから降らないでくれ!」です。

2022年12月25日 日曜日
映画「すずめの戸締り」のポスター
新海誠監督作品「すずめの戸締り」を観ました。
原作はなく、新海監督による映画オリジナルストーリーです。
この日は、若い観客に混じってシニアの姿もちらほら。「君の名は」の時よりも、その割合が多くなったと感じました。
本作にはスピンオフ企画として、主人公の鈴芽(すずめ)の叔母にあたる環(たまき)の視点からみた物語を、小冊子(小説)として劇場で無料配布しており、本編を鑑賞した後に読んだら、より深く作品の世界観にひたることができ、泣けました。

九州に暮らす高校2年生の女の子、すずめが、ある日「扉を探している」というミステリアスで美しい青年、草太に出会うところから物語は始まります。すずめは草太を追って迷い込んだ廃墟の中で古ぼけた扉を見つけ、なにかに引き寄せられるように手を伸ばしドアを開けます。すると扉の向こう側には、ハッブル宇宙望遠鏡で撮影した天の川のような幻想的な風景が広がっていました。

草太は、扉の向こう側からは災いがやってくる。自分は扉が開いて災いが外に出る前に扉を閉めて鍵をかける「閉じ師」として日本全国を旅していると、すずめに話します。
そんな2人の前に突然、言葉を話せる謎の白猫、ダイジンが現れます。ダイジンは「すずめ、好き。でも、お前は邪魔」と言い放ち、草太を小さな黄色い椅子の姿に変えて、そのまま逃げてしまいます。ここから、ダイジンを追いかけ捕まえるために、九州から神戸、東京、そして東北へと、すずめと椅子に姿を変えた草太の旅が始まります。そして二人は、いつしか、心を通わせるようになり「ある真実」にたどり着くという、ロードムービー仕立てになっています。

白猫のダイジンは、すずめたちの味方なのか。また、物語後半に登場する黒猫のサダイジンとの関係性はなにか。草太が黄色い椅子の姿に変えられた理由と、椅子の足が一本ない理由。扉が世間から忘れられた廃墟に開くのはなぜか。そして、すずめにとって、扉を閉めるとはどんな意味があるのか。観客はこういった謎を考えずにはいられなくなり、誰かとそれを共有したくなる。映画監督というよりは作家としての新海誠の懐の深さ、幅の広さを感じさせる作品でした。

本作のテーマは何か。良い作品というのは、いろいろな見方ができるので難しいですが、「過去にあったことは、あったこととして認めなければならないけれど、いつまでも、そこにとどまってしまうのは終わりにして、未来を見つめよう」ということではなかったかと私は思いました。
災いである「みみず」が現れる廃墟は昔は栄えていた場所のことです。劇中で使われたユーミンやチェッカーズ、松田聖子、河合奈保子、井上陽水、吉幾三といった80年代に活躍した人たちの楽曲が象徴するのは「豊かだったあの頃」です。でも、もうあの頃には戻れません。それを知りながら、あの頃に戻りたいという気持ちがあると、そこから災いが出てくる。だから過去に戻ろうとするはやめようという文脈として捉えられます。そこに重なるように「過去に戻りたい」という憧れの対象として、すずめのお母さんがいて、でも本当はそれは自分だった、憧れていた本当の相手は自分だったという描かれ方をしています。これは「もう戻れないし、失ったことに対する喪に服して、生きる覚悟を決めなさい」ということではないかと思うのです。これは災害などにまつわることだけじゃなくて、衰退している現在の日本に向けたことでもあるような気がします。

2022年12月27日 火曜日
「巻パソコン教室の様子」のポスター
2022年12月27日、火曜日の新潟日報朝刊に「文字書く喜び 心に光」という見出しで、パソコン教室「すずらん」を主催している大橋靭彦(おおはしゆきひこ)さんが、障害者の生涯学習支援活動の分野で、2022年度の文部科学大臣表彰を受けたことが掲載されました。
ご自身も視覚障害がある大橋さんは、障害者のパソコン利用を支援する活動に励まれる一方、写真もコンクールで入選されるなど、とてもアクティブな方です。
大橋さんとは障害者の自立を支援するNPO法人「オアシス」で会員として知り合いました。このホームページのDiary、Profileに使っているスイートピー、カサブランカの写真は大橋さんからいただいたものです。
パソコン教室「すずらん」の良いところの一つは、日々の活動の様子を積極的に発信していることだと思います。
人生の途中で目が見えなくなり、字も読めない、書けない状態になった人が、パソコンで字が書けるようになり、メールが利用できるようになり、メーリングリストなどに参加して、自分の思いに、顔も知らない誰かが返事をくれた時のよろこびは格別のものがあるといいます。今日はどんなメールが届いているかと楽しみになり、そして自分が書くメールも、自分と同じように楽しみにしている人がいるかも知れないことに気が付いた時、よろこびはもっと大きくなるそうです。
そういう仲間が集まって、パソコンを通じて新たな人生の楽しみを創っていることを、自分たちの言葉で発信することの意義はとても大きいと思います。
さらなる大橋さんの活躍に期待します。

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